
婚活のせつない事実 女性が求めるのは…イケメンか年収1000万円以上?
女性は若くて美しければ低収入でも結婚できる。男性は300万円以上の稼ぎは必須で、500万円以上あれば有利。ただし、若々しい外見と誠実さ、そして安定性がなければ難しい--。
20代・30代の独身男女にアンケートを取ると、露骨な結果が出た。自由回答欄を見ても、「年収を理由に振られた」(年収300万円未満)、「年収が低いため、養っていく自信がない」(同300万~500万円未満)など、年収500万円未満の男性からは濃厚なあきらめムードが伝わってくる。(以下省略)
(SankeiBiz 2014.11.30)
コトダマの里のAzuです。選挙も終わり、いよいよ忙しい年の瀬に突入していますが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。
ところで、わたしの知り合いの30代の女性で現在婚活中の人が何人かいます。どの人も何らかの婚活サービスに登録して真剣に取り組んでいるようですが、みなさんなかなかすんなりはいかないようです。
わたしはすでに達観していますが、なかなかいい人いないなあ、と思い悩んでいた時期がたしかにありました(遠い目)
そんなときにふと偶然出会ったのが、山岸凉子先生の『朱雀門』。
読み終わったときに冷たい氷のつららが心臓に突き刺さったように全身硬直してしまい、すぐさま目をつぶって本棚に押し入れてしまいました(恐怖)
少女にとってはホラー漫画
だいたい山岸先生の漫画は少女漫画なのに「少女漫画ばっかり読んでいるんじゃないわよ!」とほっぺたをビンタして夢の世界から現実に引きずり下ろすような作品が多いです。山岸先生の作品にはホラー漫画も多いのですが、いっけんホラーに見えなくても別の意味でホラーな作品がけっこうあります。
現在主流の甘々な少女漫画と対照的ですが、逆にそれだからこそ精神のバランスを取るために本棚に必ず用意しておきたい漫画です。ただ、読むタイミングは重要です。
さて、『朱雀門』は短編で(『山岸凉子スペシャルセレクション第8巻』所収)、Ryuさんが大好きな芥川龍之介の『六の宮の姫君』を題材にした作品です。
芥川龍之介の『六の宮の姫君』のあらすじは、おおよそ以下の通りです。
芥川龍之介『六の宮の姫君』あらすじ
六の宮の姫君は父母の寵愛を受けて何不自由なく育ちました。姫君は昔気質の父母の教え通りに慎ましく振る舞い、とくに嬉しいことも悲しいこともない代わりに格別不満もない平穏な日々を過ごしていました。
しかし突然両親が相次いで亡くなり、乳母と姫君だけが残されてしまいます。乳母は姫君のために骨身を惜まず働き続けましたが、家は次第に落ちぶれて生活が苦しくなっていきます。しかし姫君はどうすることもできず、昔と少しも変わらずに寂しい家の中で琴を引いたり歌を詠んだりして日々を過ごしました。
このままで先行き成り立たないと案じた乳母は、姫君に男と会うように勧めます。姫君は、それは生活のために身を売るのも同然だと嘆きますが、結局は男と会い一緒に暮らすことになります。
男は上品で優しく、姫君を愛してくれました。姫君もそれには悪い気はしませんでしたが、男と一緒にいても一度も嬉しいと思ったことはありませんでした。ただとりあえず、平穏な日々を過ごすことはできました。
しかしやがて男は陸奥の守に任ぜられ、五年後には帰ってくると言い残して姫君の元を去ります。ところが、五年経っても男は帰ってきません。
男が地方に赴任中に娶った妻と京へ帰ってきたのは、結局九年目の秋でした。男は姫君を訪ねようとしますが、六の宮はすでに朽ち果てており、残っているのは荒れ果てた庭跡と築土だけでした。
男は姫君の行方を探し回り、ある日偶然、朱雀門の近くの荒ら屋で破れたむしろをまとった乳母に介抱されている不気味なほど痩せ枯れた姫君を見つけます。
男は姫君の名前を呼ぶと、姫君は男の顔を見て突如何か叫んだかと思うとそこに倒れ込んでしまいます。
乳母は急いで近くにいた乞食法師にお経を読んでくれるように頼みます。姫君は男に抱えられながら、夢うつつのまま静かに息を引き取りました。
後日、姫君を看取った乞食法師が朱雀門にいると、侍が近づいてきて、近頃このあたりで女の泣き声がするそうではないかと問いただします。法師は侍に耳を澄ましてみるように言うと、やがてたしかに細々と女が嘆いているような声がします。
あわてて刀に手をかけた侍に法師は言います。
「あれは極楽も地獄も知らぬ、腑甲斐(ふがひ)ない女の魂でござる。御仏を念じておやりなされ。」
婚活女子にカツ入れ
さて、山岸先生の『朱雀門』はこの芥川龍之介の『六の宮の姫君』を題材にした現代のお話です。あらすじは以下の通りです。
山岸凉子『朱雀門』あらすじ
話は女子中学生の千夏(ちか)が家で芥川の『六の宮の姫君』を読んでいたときに、叔母の春秋子(すずこ)のお見合い用の着物を呉服屋が届けに来たところから始まります。
春秋子はイラストレーターで、32歳の独身。千夏は、自分の好きなことをして自立して生きているカッコイイ春秋子に憧れています。
そんな春秋子が着物を着てお見合いに臨むことに、千夏は少しガッカリ。背景には、春秋子の母(千夏の祖母)が病気で入院して、いつまでも一人でいる春秋子を心配していたことがありました。
そして春秋子は母が亡くなったのを機にさらにお見合いに本腰を入れ始めます。千夏は、化粧も服もバッチリ決めて気合いを入れてお見合いに臨む春秋子を見て、全然らしくないと失望します。
ただお見合いは何度やってもうまく行きませんでした。ほとんどは春秋子が断るのですが、たまに気に入った人がいても今度は相手に断られるというパターンです。
そんなある日、芥川龍之介の『六の宮の姫君』を読んでいた千夏は、たまたま訪れた春秋子とその小説について話をします。
千夏が「姫君があまりに可哀想」と言うと、春秋子は六の宮の姫君はたしかに芥川が書いたようにふがいないのだと言います。
そしてこの話で芥川が言いたかったことは、「『生』を生きないものは、『死』をも死ねない」ということだと指摘します。

「この時代のお姫様だからこういう生き方も仕方なかったのかもしれないけれど、その中で姫君はただの一度も自分でどうこうしようと努力してないのよ。ただ襲ってくる運命を甘んじて受けるだけ。乳母が家の物を売り払いながら生活に苦しんでいるのを知りつつも、自分ではどうこうすることもできず、琴を引いたり、歌を詠んだり。」
「それでも男に身をまかせた時、彼女は自分を哀れんで泣くだけで、決して相手を愛したりなぞしていないのよ。それでいてその愛していない男の援助だけは、つまり相手の愛だけはあてにして何年も待つのよ。」

「この何も知らない、見ない、ただ待つだけ耐えるだけなんて、そういった人間は自分の『生』を満足に生きていないのと同じよ。たとえこの時代のお姫さまだとてね。」
「生とはね、生きて生き抜いてはじめて『死』という形で完成するんですって。」「つまりは生きるという実感がなければ、死ぬという実感がなくてあたりまえなのよ。六の宮の姫君は自分が死んだという実感もまたわからないまま死んだんだと思うわ。結局死をうけいれられなかったのよね。」
そしてそして春秋子は、いっけん好きなことをして自由に生きている自分を六の宮の姫君に重ね合わせます。
「(あと一歩のところまで行ったハイスペックな研究職の男性とのお見合いを顧みて)ふたりともすごく好きなことだけをやってきた人間なのよね。ものすごく好きなことがあるということは、すごく嫌いなこともあるということなのよ。嫌いなことというのは、許せないことと同じなのよ。」
「許せないことがいっぱいあると、それはもう、寛容性が皆無に近くなるのよ。つまり彼には包容力や許容力がないのよ。それはわたしが今までお断りしたお見合いの相手に示した態度と同じだったのよ。ささいなことが許せなくて、その人達を拒否してきたのよ、わたしも。」
「なんとわたしは自分が100パーセント許されることを期待しながら、相手を1パーセントも許さない人間だったのよ。そういう人間が他人を愛せると思う?」
「他人を許す、他人を引き受ける、それができなくて何が愛よね。お見合いなんか何度やっても同じよ。六の宮の姫君のことなんか言えたわたしじゃないのよ。」

そして春秋子は、これからも諦めずにお見合いを続ける、と言います。
春秋子の話を聞いた千夏は、ふと好きな先輩の顔を思い浮かべます。自分が傷つくことを恐れて、先輩と正面から向き合うことを恐れていた千夏は、勇気をふるって先輩に電話をかけようとするのでした。(終わり)
……ビンタくらった(泣)
しかし、平安王朝のお姫様に憧れる少女漫画の読者にこれはないんじゃ…… ただ山岸先生がスゴいのは、六の宮の姫君だけでなく、いっけんそれとは対極の「自立した女性」の象徴のような春秋子に対してもビンタ食らわせているところです。
もしかして自分自身への叱咤激励の意味もあるのかもしれません。
アントニオ猪木から気合いを入れてもらうように、生来甘々なわたしはときどき山岸先生の漫画からカツを入れられています。(ただし体調の良いときに限る。)
座右の銘として電子書籍で端末に入れておきたいのですが、残念ながらまだ電子書籍化されていません。全集早く電子化してくれないかなあ~
追記:
この記事書いた後にRyuさんに聞いたら、『六の宮の姫君』はたぶん芥川龍之介が自分のことを書いたんだろう、と言っていました。ということは、婚活男子にもぜひ読んでもらいたい漫画です。
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Azu

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