photo credit: pjan vandaele via photopin cc

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 日本人にとって今も昔も、お盆は正月と並んで重要な時期である。とはいえ、今やそれは実質的にはたんに「ある程度まとまって休暇をとる時期」になりつつある。人口減少や地方の過疎化が進むとこの傾向に拍車がかかるだろう。

 最近の子どもは、田舎のお祖父ちゃんお祖母ちゃんから正月のお年玉と同様に「お盆玉」をもらえる機会としてしか認識していないかもしれない。こうなると、お盆は正月と並んで半年に一遍の「お祝い事」である。

 とはいえ、お盆に実家に帰省して墓参りする人はまだ多いだろう。本日まさに実家で祖父母や親類とともに故人を偲んでいる人も多いかもしれない。

あの世とこの世を往来する先祖の霊

 お盆のしきたりは地方によってまちまちだが、おおむね、13日ごろに迎え火とともに先祖の霊を「この世」にお迎えして、お菓子や果物などのお供え物をし、16日ごろに送り火とともに「あの世」に再びお送りする。

 宗教的行事としてのお盆は、言うまでもなく仏教の「盂蘭盆」に由来する。しかしながら、「盂蘭盆」はもともとは先祖の霊があの世とこの世のあいだを行ったり来たりする話ではない。

 すでに多くの研究によって明らかにされているように、「盂蘭盆経」で目連が亡き母を餓鬼の苦しみから救う話が、中国で先祖霊を供養する道教の中元行事と合わさり、それがさらに日本古来のアニミズム的な霊魂観と合わさって、今のようなお盆の慣わしになったとされている。

 こうしてお盆は、家族・親族、および故人・先祖を含めた、生者と死者の「霊魂」が一堂に会する交流イベントになった。
 

人間と自然の心を読むための概念装置としての霊魂

 梅原猛が述べているように、日本の宗教的土壌は根底からアニミズムであって、神道、仏教、キリスト教、あるいはその他の宗教も日本においては結局多かれ少なかれ「アニミズム風」になる(*)

  • 梅原猛(1989)「アニミズム再考」『日本研究』1(国際日本文化研究センター)

 なぜこれほどまでに根強くアニミズム的なのかは、諸説いろいろあるだろう。文化進化論的な観点からありうる一つの仮説としては、しばしば大きな災害をもたらす極めて変化に富んだ自然環境のなかで村落共同体の人びとの協調や団結でなんとか生き延びてきたという環境要因がそうした“文化的DNA”を作り上げた、ということが考えられる。

 そして、未発達な言語や知識のもとで人間どうしの協調や団結をはかるためには、他者の「心」を読むということがとても重要になる。したがってそうした環境のもとでは、心に対する「センシティビティ(感度)」が否が応でも高まらざるをえない。

 ただそのさい他者とは人間だけではない。ゆえに、心に対する高いセンシティビティは、人間だけではなく人間以外のものの心を読む、つまりそこに心を仮定することでその振る舞いを予測したり理解したりしようとすることにつながるだろう。

 ただそのためには心を人間の身体と一体のものとしておくことはできず、生身の身体と切り離した実体にしなければならない。したがって、心というよりは「霊」あるいは「魂」という観念が必要になる。

 つまりこうした観点からは、人間の身体から切り離された「霊」や「魂」は人間と自然とを包摂した「他者」を理解するための概念装置として捉えられることになる。
 

霊魂との対話の方が“生き生きと”している

 ところで、このようなアニミズムは人間の宗教的信念としてはたしかに「原初的」であるだろう。しかしだからといって、他の宗教的信念に比べて「下等」であるとは限らない。そもそも宗教的信念に上位・下位があるというのもヘンな話である。

 わたしはこうしたアニミズム的な信念体系は、一般に思われている以上に現代人の「価値観」と親和性があるのではないかと思う。というのも、それは昔も今も、(容易には理解しがたい)他者と自分のあいだで生き生きとした対話をはかるためのツールとしてそれなりに役に立つだろうからである。

 別の言い方をすると、“魂の抜けた”人間どうしで話をしていても“生き生きと”話をしている感じがしないということもあるだろうし、それよりは“霊魂”と話をしていたほうがまだ“生き生きと”話をしている感じがするということも真面目にありうる話なのである。

 お盆の期間中は全国でそうした“生き生きとした”会話がなされていることを願っている。

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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