エルサの屈折した愛とアナの無邪気な愛

 エルサは幼い頃、大切な妹のアナを傷つけてしまった自分の「魔力」に驚き、妹を傷つけることを恐れて、妹を遠ざけたまま引きこもってしまいました。つまりエルサは自分の「魔力」を「悪」と思い込み、自らの内にあるそれに恐怖してしまったのです。ただこれはもともとは両親がエルサの「魔力」を「悪」として他人の目に触れないよう封じ込めようとしたからです。

 この「魔力」は、個々人が持つ「特性」、もう少し積極的に言えば「才能」「素質」「潜在能力」を象徴しているものだと思います。『アナと雪の女王』を「マイノリティ(少数派)の抑圧からの解放」の物語として捉える人は、それを「セクシュアリティ(性的嗜好)」や「エスニシティ(民族性)」として捉えるかもしれません。ただここではもっと一般的な「特性」としてよいと思います。

 自分の持っている「特性」は、必ずしも他人にとって有益だったり、魅力的だったりするとは限りません。それはときには他人を不愉快にさせたり、傷つけたりすることもあります。ただそれは他人の価値観や趣味に合わないだけかもしれません。いずれにせよそのような「特性」は、他人から一方に「悪」というレッテルを貼られ、自分もそういうものだと内面化してしまうことがしばしばあります。

 ただエルサの場合、アナを愛するがゆえに自分の特性(=魔力)に対する「悪」というレッテルを甘んじて受け入れてその特性を抑圧しているわけですから、これは一種の「自己犠牲」にも見えます。ただじつのことろそれは「自己犠牲」と言うより「自己否定」であって、そうした「自己否定」はアナに対してもエルサ自身に対しても実りある結果は何も生み出しません。

 他方、無邪気な妹のアナは、他人を疑うことを知らず、初対面のハンスがたんに「自分とよく似ている」(例えば兄弟から冷たくされていることなど)ということだけでハンスと愛に陥ります。ただハンスがアナと「よく似ている」のは、先に指摘したようにハンスがアナの鏡だからです。

 ハンスがアナの鏡であることは、出会ってすぐラブラブになって歌うあの“Love is an Open Door”にすでに暗示されています。

Love is an Open Door

Anna:
All my life has been a series of doors in my face
And then suddenly I bump into you
(日本語吹替)
(どこにも出口の無い日々が突然に変わりそう)

Hans:
I was thinking the same thing
because like…
(ボクも同じこと考えていた。)
(だって……)

I’ve been searching my whole life to find my own place
(どこにも居場所の無い日々で探し続けていたこんな人を)

…………
Anna&Hans:
I’ve never met someone
Who thinks so much like me
Our mental synchronization
Can have butone explanation
(わたしたちはよく似てるね)
(考えていること 感じていること 似てるね)
…………

 
 この歌の中でハンスはアナの言葉と気持ちを木霊(こだま)のように返し、それが二人のとても息のあったラブラブな雰囲気を醸し出し、聞いてる方もとてもラブラブな気持ちになります。

 ただ、アナとハンスがぴったりシンクロナイズするのはまさにハンスがアナの感情や願望を映し出す鏡だからで、アナは自分に「よく似ている」ハンスに、つまり自分自身に恋をしていることになります。これは要するに「自己愛」に他なりません。

 そして無邪気なアナは当然自分を「善」だと思っているわけですから、ハンスも当然「善」になります。アナはハンスを傷つけることはないし、ハンスがアナを傷つけることもない。閉ざされた鏡の世界の中でアナは自己愛の世界のヒロインでいられるのです。
 

“Let It Go” もうどうにでもな~れ~♪

 さて、エルサの女王即位の戴冠式のとき、エルサとアナは13年ぶりに顔を合わせることになります。そしてお互いを慕う思いが幼い頃と変わっていないことを確認します。

Ann and Elsa | Frozen

Frozen (C)Disney

 ただ舞踏会のときにアナはハンスを連れてきて結婚すると言い出します。エルサは驚いて、初対面で結婚はありえないと即座に否定します。するとアナは自分たちの思いは「真実の愛」(true love)であってエルサは他人を遠ざけるばかりで「真実の愛」を知らない、と言い放ちます。

GREAT HALL | Frozen (C)Disney

Frozen (C)Disney

 アナを愛するがゆえにアナを10年以上も遠ざけてきたエルサに対して、初対面のハンスとの愛を「真実の愛」とのたまうわけですから、エルサがブチ切れるのは当然と言えば当然です。ただエルサの自己全否定の愛もアナとハンスの自己全肯定の愛――鏡に反射する自己愛――もじつはコインの裏表で、どちらも「真実の愛」とはほど遠いのですが。

 ともかくエルサは動揺して魔力を封印していた心のタガが外れ、魔法が暴走して一挙に爆発してアレンデール全土を一瞬にして凍結させてしまいます。そしてアレンデールを飛び出して一人孤独に雪山に向かうエルサは、ここであの“Let It Go”を歌います。ただこのこの歌はいわば「開き直りの歌」で、アレンデールを含めていっさいがっさい「もうどうにでもなれ~」という心境を歌っていることになります。つまりパワフルな女王様が極端な自己否定から極端な自己肯定にぶっ飛んでしまったわけで、その可愛そうな犠牲者がアレンデール国民だったわけです。

Let It Go | Frozen (C)Disney

Frozen (C)Disney

 こうしてエルサも氷の城の中でアナと同じような「自己愛」の世界に閉じこもってしまいます。そしてここで注意すべきは、エルサが自分自身を「悪」とみなす自己否定から解放されるために、今度はその「悪」というレッテルを他者に張り替えてしまった点です。つまり自分の城に引きこもり、そこから引きずり出そうとする他者を敵とみなして攻撃するのです。

 そして、エルサを連れ戻そうと氷の城に来たアナに動揺して、魔法が暴走してまたしてもアナを傷つけてしまう。さらに氷の城に突入したハンス率いる兵たちを魔法で撃退しようとして、兵士の喉に氷を突き刺す一歩手間までいく。そのときハンスが踏み込み、「エルサ女王! モンスターになってはいけない!」と叫ぶのです。これはエルサ自身の心の叫びだったのでしょう。

Battle between Elsa and Hans | Frozen (C)Disney

Frozen (C)Disney

「裏切り者」はアナ

 エルサの魔法で心臓が凍りついてしまったアナは、トロールの賢者から助かるためには「真実の愛」しかないと告げられ、クリストフはそれはハンス王子のキスだと思ってアレンデールの城にアナを送り届けます。城に着いたアナはハンスにそのことを話してキスを求めるが、そこでハンスの態度は豹変します。

 ここはいかにもハンスが悪者で、アレンデールを乗っ取ろうとしていた悪巧みが露わになったように見えます。しかし「『アナと雪の女王』ハンス王子の解釈」にも書かれているように、ハンスは「本性を現した」のではありません。ハンスには「本性」はないのです。ハンスはあくまでそのときどきに向き合っているキャラクターの心の動きを反映している鏡に過ぎません。

 じつはこのとき、「悪」に最も近づいたのはアナなのです。アナはエルサが自分を傷つけるはずがないと信じていました。実際アナはエルサの暴走した魔法で不運にも傷を負ったに過ぎません。それなのに、それだけで、エルサは自分を傷つけたのだと思い込み、悪いのはエルサだとハンスに言うのです。じつはエルサが自分の願いを聞き入れてくれなかったので――全部聞き入れてくれるハンスが「善」であるのと対照的に――エルサを「悪」だとみなしたに過ぎません。

Hans:What happened out there?
(何が起こったんだい?)
Anna:Elsa struck me with her powers.
(エルサがわたしを魔法で撃ったの。)
Hans:You said she’d never hurt you.
(エルサが君を傷つけることはないと言ったじゃないか。)
Anna:I was wrong.
(わたしが間違っていたわ。)
Anna:She froze my heart and only an act of true love can save me.
(彼女が私の心臓を凍らせて、真実の愛のキスだけが私を救ってくれるの。)

Anna and Hans | Frozen (C)Disney

Frozen (C)Disney

 つまり、裏切ったのはアナなのです(もちろんアナにはエルサを裏切ったという自覚はありません)。鏡であるハンスは、たんにアナの「裏切り」を反射して「何言ってんだこのアナ~!」と彼女自身に突きつけたに過ぎません。

 そしてアナは自己愛の鏡の世界で出口を見失い心臓が凍って死にそうになります。それを救ったのはオラフでした。オラフはアナが閉じ込められて凍死しそうになっていた図書室の鍵を開けて入り、 暖炉に火をつけてアナを助けようとします。ハンスに裏切られ(たと思って)「真実の愛」が分からないというアナに対して、「愛は自分より先に他人の願いを叶えようとすること(Love is putting someone else’s needs before yours)」だと教えて、アナを愛していながらハンスに送り届けたクリストフの行為がまさにそうだと示唆します。そして自分は暖炉の火で溶けそうになるのにもかかわらずアナを暖めて助けようとします。

 オラフはエルサが持っていた「真実の愛」の化身なのでしょう。そしてオラフがアナが閉じ込められていた自己愛の世界のドアを開け、そこから救い出したのです。

Olaf | Frozen (C)Disney

Frozen (C)Disney

 

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