映画『おくりびと』(出典:Amazon)

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「看取りの場所」から「帰るホスピス」へ

 「ホスピスは看取(みと)りの場所」と思われがちだが、「今後は『帰るホスピス』が増えていく」との声が上がっている。高齢化でがん患者が増える中、痛みの緩和などのホスピスケアを、必要な人が等しく受けるにはどうすればいいだろうか。

 越川病院(35床)は緩和ケア病棟ではないが、越川貴史院長は病棟を「帰るホスピス」にしたいと考えている。入院患者の8割超が再発がん。在宅医療も行うため、医療用麻薬を使いながら退院する患者も多い。「状態が悪いときは緊急入院してもらい、痛みのコントロールが済んだら、再び家に帰れるようにできたらベスト」と言う。

 海外では「帰るホスピス」はごく一般的。日本でもこうした利用が増える背景には、従来の「看取る」ホスピスが利用しづらくなっていることがある。「都心では半年も入院を待つ例もあり、元気なうちからホスピスを探さなければならない」(越川院長)のが現状。柔軟に入退院ができれば、より多くの人が、必要なときにホスピスケアを受けられるようになる。

……(中略)……

 患者像の変化もある。従来のホスピスは一般に、治療を終えた人が対象。だが、「分子標的薬などの登場で、ぎりぎりまで抗がん剤治療をする患者さんが出てきた。多様化するニーズに合わなくなっている」(越川院長)。国の「がん対策推進基本計画」では「診断されたときからの緩和ケア」も盛り込まれた。誰もが痛みなく治療を受け、穏やかに逝くにはどうすればいいのか-。

 現場では模索が続いている。

理想は8割の人が自宅、現実は8割の人が病院

 日本人の死に場所、すなわち「看取りの場所」は、戦後間もない時期は8割超が「自宅」で1割弱が「自宅外」(病院など)だったが、その後「自宅」は年々減少し、高度経済成長が終わる1975年ごろに両者の割合は逆転し、現在では逆に「自宅外」が8割超、「自宅」が1割弱となっている。

死亡場所の推移(出典:ILC企画運営委員会・辻彼南雄(2012)『平成23年度 理想の看取りと死に関する国際比較研究』

死亡場所の推移(出典:ILC企画運営委員会・辻彼南雄(2012)『平成23年度 理想の看取りと死に関する国際比較研究』

 つまり現在の日本人にとって「病院で死ぬ」のはごく当たり前のこととなっている。ただし、これもある意味で「当たり前」のことだが、病院は「死ぬための場所」ではなくて「生きるための場所」、すなわち病気を治療して健康な生活を取り戻すための場所である。ゆえに、例えばがん患者などは病院にいる限りはぎりぎりまで「積極的治療」でその可能性を追求することになる。

 ただし、この「積極的治療」はしばしば副作用による壮絶な「闘病」を伴うので、患者はまさしく闘いの果てに「戦死」するような最後を遂げることになる。

 病気の治療だけでなく痛みのコントロールなど患者のQOL(生活の質)を重視する「緩和ケア」の考え方が日本の医療現場に広まり、制度化されるようになったのは1990年代以降である。そして緩和ケア病棟は1990年には5病棟(117床)だったものが、2012年には257病棟(5,101床)にまでなっている。

 とはいえ、がん患者数に比べると緩和ケア病棟・病床数はまだまだ乏しく、実際緩和ケア病棟で死亡したがん患者の割合は2011年で8.4%に留まる(日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団『ホスピス・緩和ケア白書2013』)。しかし今後見込まれるがん患者数の増加や社会保障費の逼迫を鑑みると緩和ケア病棟・ホスピスでの対応には限界があり、厚生労働省は「在宅緩和ケア」の普及を推し進めている。

 たしかに、終末期を自宅で過ごしたいと思っている人は8割にのぼる(日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団(2012)『ホスピス・緩和ケアに関する意識調査報告書』)ただし自宅で十分な緩和ケアを受けながら満足のいく終末期を過ごし安らかに看取られるためには、現状ではかなり恵まれた環境にいないとなかなか難しい。

 すなわち、がんの末期は症状が多彩で変化も早いので、それを見守れる家族や介護スタッフ、そしてそれを24時間体制でサポートする緩和ケアに慣れた医療スタッフがいる必要がある。つまり結局は「重病人が自宅のよさを満喫するには、病院なみの医療がそれを支える必要」があるのである(松永美佳子(2013)「多様化する看取り : 緩和ケアを通して見えてくるもの」『癌と人』40)。

 そうだとすると、本当のところは自宅で看取られたいと思うものの、現実にはそれができる環境にはない、あるいはそうした環境はあったとしても家族に迷惑や負担をかけたくないなどの理由で、実際には緩和ケア病棟・ホスピスを選択する人は多いと思われる。

 しかしその一方で、緩和ケア病棟・ホスピスの絶対数が少ない現状だと申し込んでから何ヶ月も待たなければならないこともしばしばで、いわゆる「がん難民」となって満足な治療もケアも受けられないまま不本意な看取られ方をしてしまうケースも少なくない。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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