「芥川龍之介」『青空文庫』

「芥川龍之介」『青空文庫』

電子書籍とは何か(2)

……(前略)……

 「趣味」で本を読む人のなかには、その嗜好の対象に本に書かれてある「内容(情報や知識)」だけではなく「本というオブジェクト(物理的対象)」が不可欠のものとして含まれている人も少なくないと思われます。

 かく言うわたしも、本当に好きな本は紙の本で所有しておきたい、と思っています。もちろんその本の内容が好きだからではありますが、その「好き」という感情がある一定レベルを超えると一種の「偶像崇拝」のようになって「物体として愛でたい(崇めたい)」という感情に高まるのです。

 前回、前々回Take氏が「電子書籍とは何か」について議論している。
 前々回は、電子書籍に対する関心は低調なままである、というインターネット調査の結果について、そもそも一般の人は「電子書籍」について十分に理解してないはずである、と指摘している。

 これについては同感である。調査技法上の用語で言えば「回答誤差が十分にコントロールされていない」ということである。
 ただこれは「電子書籍」に限ったことではない。そもそもネット調査では回答誤差は十分にコントロールできない。本当はその点を考慮に入れて調査結果を見るべきなのだが、一般の人はそこまでは注意しない。これはネット調査の大きな問題点であるが、その点については関係諸団体が尽力すべきことであろう。

 しかしその点を考慮に入れても、電子書籍に関する関心が電子書店業界が喧伝しているほど盛り上がっていないのは事実だろう。
 とはいえ、そもそもこの「喧伝」はたんなる「宣伝」である。わたし自身は、そうした「宣伝」とは無関係に、電子書籍は粛々と着実に普及していくと考えている。

 ところで、前回Take氏は電子書籍がまだそれほど普及していない理由として「大切な本は紙で、それ以外は(やむをえず)電子書籍で」という読書家の心理を指摘している。これについては、半分ぐらいはうなずけるが、半分ぐらいは「そうとは限らない」と思う。

 例えばわたしは芥川龍之介を愛読している。だが、彼の紙の本を「愛蔵」したいと思ったことはない。むしろいわば「座右の銘」として、読みたいと思ったときにすぐに読みたいと思う。朝起きたときでも、通勤中でも、仕事の休憩中でも、公園のベンチに座っているときでも、夜布団に入っているときでも。

 そういう人間にとって何より有り難かったのはインターネット上の電子図書館である『青空文庫』である。
 わたしにとって非常に幸いなことに、ここには芥川の多くの著作が公開されている。ネットにつながる端末さえあれば、好きなときに好きな著作が読める。
 しかも、画像など不要な装飾が一切無いたんなる「テキスト」であるから表示が極めて早い。電子書店から購入できる電子書籍よりも早い。わたしにとって「読みたい」のは彼の「テキスト」であり、それ以外のものはまったく不要である。

 ちなみに楽天やアマゾンが電子書店サービスを開始したときに、とりあえず『青空文庫』の無料本を大量にそろえて体裁を繕ったが、そのさい芥川の本も大量に電子書籍化されて公開された。それはもちろん端末の中に入っている。それでもネット上の『青空文庫』の方をもっぱら見ている。ブックマークしていてすぐ出てくるので何かと便利と言うこともあるが、なんというかその「テキスト」に不思議な愛着があるような気もする。

 そういうわけで、『青空文庫』はわたしにとっては現在インターネット上にあるサービスでもっとも価値のあるサービスである。そしてそう思うから「コトダマ図書館」を作った。

 もちろん、芥川龍之介の初版本とかサイン入りの本とかがあればそれを分解して電子書籍にしようとは思わない。しかしだからといってそういうものを積極的に手に入れたいとも思わない。

 電子書籍より紙の本がいい、という心情も分かる。ただそれは多分に長い歴史と伝統に根ざした「文化的慣習」の要因も大きいと思う。紙の本の歴史に比べれば電子書籍の歴史は地球史と人類史のようなものだろう。人類が地球をどうのこうのするのはまだ「おこがましい」のと同じである。

 しかしそうではあっても、文化は変わっていく。これからインターネットがわたしたちの文化の主要なインフラになるのはまちがいない。そしてそれに呼応して電子書籍も読書の基本的な文化スタイルになっていくだろう。
 たかだか1、2年のスパンであれこれ騒ぐのは四半期決算に追われているビジネス業界ぐらいで―その点ではわたしにとっても重要な問題ではあるが、それはそれとして―電子書籍の可能性について議論するときには文化変容や文化創出という中長期的な視点も必要だろう。

 ところで余談だが、楽天やアマゾンの電子書店がスタートしたときに、無料本で検索するとまず最初に(「あ」から始まるので)『青空文庫』の芥川の著作がずらずらと出てきた。(しかも芥川の公開著作数は『青空文庫』の中でもダントツに多い。) これによって―たんなる電子書籍の試し読みかもしれないが―初めて芥川の本を読んだ人も多かったのではないかと推測される。だとすれば、楽天やアマゾンの「意図せざる文化的貢献」として個人的には喜んでいる。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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