日本の人口推移(出典:総務省『平成24年情報通信白書』)

日本の人口推移
(出典:総務省『平成24年情報通信白書』)

少子化は、個人と国家の間の「ケンカ」である Nick Sakai

……(前略)……

 社会保障の進んだ長寿国で、少子化が進むのは自然な流れです。誤解を恐れずに言えば、手厚すぎる社会保障は国家のマネージメントを根底から危うくする亡国の政策なのです。ちなみに、よく、介護ビジネスが成長戦略の柱だという主張がありますが、それは今まで家計が負担してきたコストを単に金銭化して市場に組み入れただけの話で、新たな価値を産んでいる訳ではないのです。タコが自分の足を食べているようなもの、粉飾決算です。

 従って、少子化を止めるには、待機児童の削減、育児休業制度の充実やイクメンの奨励といった対症療法では歯が立ちません。人間は基本的に面倒くさがり屋で、打算的な生き物ですので、精神論をいくら唱えても望み薄でしょう。もっと、根源的でシンプルなソリューションが必要になります。それは、「子供を産まないという選択を、おいしくなくする」以外にはありません。

……(後略)……

 もし子どもを生まなくても老後の世話を「国家」がしてくれるのであれば、高い養育費・教育費を払って自分の生活を犠牲にしてまで子どもを生み育てるのはバカらしい。ゆえに、誰も子どもを生まなくなる。そして子どもがいなくなって、老後の世話をするはずだった「国家」が崩壊する。

 これは経済学(ゲーム理論)でいう「囚人のジレンマ・ゲーム」(prisoner’s dilemma game)の状況である。
 囚人のジレンマ・ゲームは、各プレイヤーが自己利益を追求すると結果として全体の利益(社会的利益)が減少してしまう、という状況をゲーム理論でモデル化したものである。

 また、少子化を囚人のジレンマ・ゲームとして捉える議論は少なくない。

 囚人のジレンマ・ゲームは、少子化だけでなく、しばしば環境破壊や公共インフラの過小供給のモデルとして用いられている。さらにはより広く、「人々が私利私欲を追求して結局は社会(共同体)が滅びる」論理の本質を描いたモデルともいえる。

 今回紹介したNick Sakai氏の議論も、少子化=囚人のジレンマ・ゲームという視点をベースにしている。
 ただわたしは、「社会保障が子どもを生み育てるインセンティブを無くしてしまう」という議論は単純に過ぎると思う。
 たしかに親にとって子どもの意義(価値)が「老後の保障のための人的資源」ということだけであれば、それに代わるもの(社会保障制度)を国家が用意してくれるのにわざわざ高い費用をかけてそれを自分で作る必要はない。
 しかし子どもがもっぱらそうした経済的価値から捉えられているのは発展途上段階の社会であって、成熟した近代社会では親にとって子どがいることの「情緒的・精神的価値」が大きくなっている。したがって、社会保障制度は高い教育費を支払ってでもそうした情緒的・精神的価値(=子ども)を享受する余裕を各家庭に与えた、という側面もある。
 しかし今や社会保障制度は崩壊の瀬戸際にあり、そんな「贅沢」をしている余裕はない。若い世代の人たちは子どもを作らずに共働き(あるいは独身で)自分の老後の備えをしなければならない。

 しかし、無理なく働き続けながら子どもを生み育てることができるような社会経済的環境が整うのであれば、それは子どもをもつという「贅沢」を享受しながら老後の備えもできるということであるから、子どものいない家庭に比べて「恵まれている」ことになる。
 したがって、そうした社会経済的環境を政策的に実現するということは実質的に「子どもを産む人にインセンティブを与えて、子供を産まない人にデイスインセンティブを与える」ことになる。
 「教育費の無償化」は実はそういうことを意味している。子どもを生み育てても大きなハンディキャップを負うことなく老後の備えをすることができるのであれば、「子どもが嫌い」というのでもない限りあえて産まないという選択の誘因は小さくなる。

 ただこれは実質的に「子育ての社会化」であり、社会保障制度のウェイトが「高齢化」より「少子化」にシフトする、ということでもある。したがって、「高齢者の切り捨て」という側面があることは厳しく認識しておく必要がある。

 わたしは以前に抜本的な少子化対策のためには子育てを社会化するしかない、と述べたが、それは社会的に合理的なことであると同時に、現実的にやむをえない、と考えている。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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