オランダにおける安楽死(出典:The Sunday Morning Herald)

オランダにおける安楽死
(出典:The Sunday Morning Herald)

安楽死専門クリニック 昨年開業後患者が殺到・処置は無料

 2002年に安楽死法が施行されたオランダでは、安楽死数は2006年に約1900人だったが、2012年には約4200人までに増えている。これは同国の年間死亡者数の3%にも上る数だ。

 安楽死数が増えている背景について、オランダ政府は「理由を明確に説明できない」としているが、同国内では“安楽死専門クリニック”の活動がその一因と考えられている。

……(中略)……

 クリニックを訪れるのは、かかりつけ医に安楽死処置を拒まれた患者が多いという。法律で定められているのは“医師が刑事罰に問われない”ということだけで、処置は義務ではない。信条や経験の有無から処置を拒む医師も多いのだ。クリニックはまさに、死に場所を求める人々の“駆け込み寺”なのである。

 処置数が急増する背景はそれだけではない。2011年11月、重度のアルツハイマー病を患っていた64歳の女性に安楽死が行なわれたことが明らかになった。それまで、認知症が進んだ患者に「自発的な意思表示」ができるのかが疑問視されてきたため、処置は行なわれてこなかったが、初めての事例になった。女性は8年前から「老人ホームに入ったら、その際には安楽死を望む」と紙に書き残していたという。

 また、今年6月には、死に直面している新生児を見るに耐えられない親は、医師に安楽死を求めることができるようになった。同国の年間出生数約17万5000人のうち、およそ650人が、その例にあたるとされる。

 わたしは以前から、現在の日本社会は「死の個人化」という大局的な社会文化的変容のなかにある、ということを述べてきた。

 そして、以前以下のように述べた。

 中長期的な視点から俯瞰すれば、戦後から進んできた日本の近代個人主義の最終局面として(「生の個人化」に引き続く局面として)「死の個人化」がいよいよ到来してきたのだと思われる。
 この「死の個人化」には陽と陰の二つの側面がある。陽の側面としては、「死」のあり方が個人の「自由」に委ねられ、それを社会的規範や文化的慣習に囚われずに自分の価値観や主義主張で決められるようになることである。陰の側面としては、逆に「死」のあり方が個人の「責任」に委ねられ、家族を含めた周囲に”迷惑”をかけないように死ななけらばならなくなることである。

 

 「安楽死」もしくは「尊厳死」もこうした「死の個人化」の趨勢の中にあるとするならば、いずれ日本でも何からの形で制度化されるだろう。

 現実的な問題としては、立石氏が指摘しているように、曖昧もしくは場当たり的な適用条件のもとで、必ずしも本人の意思が明確に確認できない子どもや認知症患者、障がい者が結果として「安楽死」になってしまうケースが多発することが予想される。

 さらに問題なのは、「社会経済的格差」がこの安楽死(尊厳死)の適用に陰に陽に影響を及ぼすことである。
 つまり、社会経済的に恵まれた層の人は終末期をどのように迎えるかを自らの意思で選択できる余裕がある。すなわち、「可能な限り生き続けたい」と思えば最先端の高度医療で延命治療や根本治療を受ける経済力があるし、「安らかに死にたい」と思えば充実した環境と設備の施設で手厚く介護されながら最後の時を迎えることができる。
 反対に、社会経済的に恵まれていない層の人は、そのどちらも現実的に選択できない可能性がある。すなわち、「可能な限り生き続ける」ことも「安らかに死ぬ」こともできず、ただ自らの境遇と運命を受け入れるしかない、という状況になることが十分考えられるのである。

 こういう現実の文脈の中に「安楽死(尊厳死)」の法制化という事態を置いてみるとよい。それが現実的に何を意味し、何をもたらすことになるかは想像に難くない。

 いずれにしろ、もし「死の個人化」が例えば「市場経済のグローバル化」のようにある種いかんともしがたい趨勢であるならば、一人の個人としてできることは「強いタマシイをもつ」ことである。

 この場合、「強いタマシイをもつ」ということが何を意味するかというと、それは例えば周囲が陰に陽に「早く死んでくれればいい」と思っているような状況の中で「生き続けよう」とすることである。

 そのような「強いタマシイ」のもとで死を迎えたならなば、その結果が現実的にどのようなものであれ、それは「尊厳死」と呼ぶに値するものだとわたしは思う。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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