一般の住宅と変わらないダイニング(出所:朝日新聞デジタル)

一般の住宅と変わらないダイニング
(出所:朝日新聞デジタル)

一軒家にしか見えない葬儀場 「ゆっくりお別れできる」

 一見、ごく普通の一軒家にしか見えない住宅風の葬儀場が増えている。くつろげる空間で、ゆっくりと故人を送りたい――。そんな思いを持つ人に受け入れられている。

 西日本典礼(本社・福岡市)が3月、福岡県太宰府市に新たに設けた「都府楼 清浄庵(あん)」。木造2階建て242平方メートルで、道路に面した看板がなければ、大きな住宅にしか見えない。

 1階の約20畳の和室が「式場」になり、祭壇が置かれる。すぐ隣にはダイニング、2階へ上がると、キッチンとリビングがある。ベッド2台が置かれた洋室や和室、浴室も。葬儀は1日に1組。同社の平島絵美子さん(33)は「寝泊まりでき、通夜から葬儀にかけて自宅のように使える。故人とゆっくりお別れができる」と言う。

 同社が住宅風の葬儀場を開いたのは、福岡市南区の「平和 清浄庵」に続き2カ所目。こちらは昨年9月の開館から50件の利用があった。利用者からは「他の家族と顔を合わせなくてすむのでいい」といった声が寄せられているといい、同社では今後、同様の式場を増やしたい考えだ。

 同様の葬儀場は各地で広まっている。

 住宅風葬儀場が受け入れられる背景について、日本葬送文化学会の前会長、八木澤壮一・東京電機大名誉教授は「人間関係の変化や長寿化で、特に2000年以降、葬儀は自分で生前に用意しておくものになった。その結果、『なるべく質素に家族だけで』となってきた。邸宅葬は、そんなニーズに合っている」とみる。

 近年いわゆる家族葬が増えているのは周知の通りだが、記事で取り上げた「邸宅葬」(住宅風の葬議場)は、そうした家族葬を「雰囲気的」に演出するものといえるだろう。

 昔の田舎であれば、自宅で葬儀をするのはごく当たり前のことであった。お通夜も葬式も自宅で行い、近所の人たちが食事の用意などのためにボランティアでそれを手伝った。
 ちなみに「村八分」とは地域共同体のなかで「火事の消火」と「葬式の手伝い」の「二分」以外の交際を絶つ、という意味であるが、裏を返せば「火事」と「葬式」はそれだけ地域共同体にとって一大事だったということでもある。

 しかし都市化や核家族化が進み、自宅での葬儀を支えてきた近所づきあいや近隣どうしの助け合いが乏しくなる。そうなると必然的に葬儀業者の用意するセレモニーホールなどで葬儀を行うことが多くなる。
 しかしその一方で、近所づきあいが乏しくなるということによって、葬儀を近親者だけで行いたいといううニーズも増えてくる。そしてそれは、本来ならばセレモニーホールで仰々しくやるよりも自宅でひっそりと行いたいというニーズに自然につながっていくはずである。
 しかし、都会では住宅が狭く満足に葬儀を行えないことも多いし、さらに地域共同体や近隣住民をあてにすることもできないので、けっっきょく自宅での葬儀(のようなもの)を葬儀業者にセッティングしてもらうことになる。

 しかしながら、たんに葬儀を簡単に済ますというのではなく、あえて”アット・ホーム”の雰囲気を演出しようとするというのは、それだけ「家族の絆(きずな)」に思いを込めていることの表れともみなすことができる。
 そういう意味では、”アット・ホーム”な葬儀の演出には、たんなる「近隣関係の希薄化」や「葬儀の簡素化」に留まらない現代人の”ココロ”のありかを示しているとも思われる。

 

スポンサーリンク

 

LINEで送る
Pocket

The following two tabs change content below.
『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)