「葬儀の簡素化」の背後にある「脱儒教的」「仏教回帰的」死生観

[中国ブログ]葬儀を通じて感じた「日本とわが国の死生観の違い」

 冠婚葬祭の習慣は国や地域によってさまざまだ。日本での喪服の色は「黒」であることが普通だが、中国では「白」であることが普通だ。また、国土の広い中国では地域によって違いはあるが、死者があの世で困らないよう紙製の銭を燃やして供養する。

 中国人ブロガーの海玲在日本(ハンドルネーム)さんは、日本で葬儀に参加した折に日中の葬儀を巡る習慣や死生観の違いを感じたという。

 生死観は国や文化によってさまざまなだが、人が亡くなるということは悲しいことであることに違いはない。筆者も長年の付き合いがあった日本人女性が亡くなり、とても悲しかったようだ。

 悲しみを引きずりながら葬儀に出席したという筆者は、火葬後のお骨を係員の説明を受けながら箸で骨壺に入れる儀式も含め、すべてが初めての経験だったそうだ。

 筆者は、葬儀に出席する前は故人を思い出しては涙が出たそうだが、一連の葬式を通じて「無常」を感じたという。そして「落ち着きを取り戻し、人生を前向きにとらえられた」という。

 日本の葬式に参加し、筆者が感じた日中間の違いは「死生観」だそうだ。筆者によると中国では死を語るのはタブーとされているが、日本では「死に支度」という言葉があるほど淡々と死を受け入れていることに驚きを隠せない様子だ。「多くの人が日本人の死生観を桜(さくら)の花で表現するのも間違いではなさそうだ」と感想を綴った。

 「未知生、焉知死」(未だ生を知らず、焉くんぞ死を知らん)という孔子の言葉にあるように、儒教はもともと生の思想(生に価値の重心を置く思想)である。そのうえで、先祖霊崇拝の古代信仰と結びついて宗教的文化としての中国儒教ができあがった。

 それに対して、インド仏教(原始仏教)は、キリスト教やイスラム教と同様に、死の思想((現世を超越する契機としての)死に価値の重心を置く思想)である。
 すなわち、現世の中で生・老・病・死の「四苦(しく)」を繰り返す輪廻のサイクルから悟り得て「解脱(げだつ)」し「成仏」することを理想とするのがもともとの仏教の教えである。こうしたインド仏教の思想からすると、「輪廻の抜け殻」である死体には何の意味もなく、また先祖霊を祭る墓も必要ない。

 しかしインド仏教が儒教文化の中国で受け入れられる過程で、先祖霊崇拝と結びついた。
 宗教的文化としての中国儒教では、先祖代々の霊はいつまでも存在し、墓と位牌を通路として呼び出すことができる。子孫である家長はその墓と位牌の管理者の役割を代々努めるのであり、あるいは家長とは結局のところ墓と位牌の管理者のことなのである。
 こうした中国儒教と結びついた結果、「先祖供養」「位牌」「墓参り」「お盆」といったもともと仏教とは無関係な(というか矛盾する)習慣があたかも仏教本来の教義であるかのように定着し、中国仏教が形成された。

 日本の「仏教」もこの儒教化した中国仏教の影響のもとで形作られたが、日本にはもともと中国同様に先祖霊崇拝の宗教的文化があったので違和感なく受け入れられたのである。
 このように、こと葬儀のような宗教儀礼的習慣に関しては日本は伝統的に中国仏教(儒教化した仏教)の大きな影響下にあり、多少の違いはあると言ってもキリスト教文化圏やイスラム教文化圏との違いほど大きいものではもちろんない。

 とはいえ、中国人からみて現代の日本の葬儀がかなり「死生観の違い」を感じさせるものになってきているとしたら、それは興味深い兆候と言えるかもしれない。
 たしかに、「葬儀の簡素化」が進む現在の日本の葬儀は伝統的な宗教儀礼的側面をどんどん希薄化させている。とくに、そこに「先祖霊崇拝」のような要素を見いだすことはほとんどなくなってきているかもしれない。ただしこれは、本来は、仏教的要素ではなく儒教的要素なのである。

 記事で紹介された中国人ブロガーの海玲在日本さんは、日本の葬儀に関して「「無常」を感じ」、日本人が「淡々と死を受け入れている」ことに驚きを感じたという。
 「諸行無常」、「涅槃寂静」の釈迦の教えを基とする仏教では、もともと死は悲嘆するようことではない。そうだとすると、表面的には葬儀の宗教儀礼的側面が希薄化してきているように見えて、じつはその背景にある死生観は仏教本来の死生観に「回帰」しているのかもしれない。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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