金子哲雄さんの遺著『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(出所:ライフハッカー)

金子哲雄さんの遺著『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(出所:ライフハッカー)

金子哲雄さん 葬儀の費用を前もって夫人の口座に移していた

 41歳の若さで急逝した流通ジャーナリスト・金子哲雄さんは、23万部のベストセラー『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小学館刊)で、こう記している。

〈「流通ジャーナリスト」として情報を発信してきた。自分の最期、葬儀も情報として発信したいと思った。賢い選択、賢い消費をすることが、人生を豊かにする。(中略)葬儀は人生の幕引きだ。これも含めて、人生なのだ。その最後の選択を間違えたくなかった〉

 金子さんは消費者のお得感を一番に考えてきた「コストカットのプロ」だったが、自分の葬儀に関してはコストを最優先する考えは取らなかった。常に考えていたのは、遺された人たちへの配慮だ。

〈最初に取りかかったのは遺産整理だ。遺産がたくさんあるわけではないが、こうしたものも、きちんと整理しておきたい。こういうことで、残してしまった人たちに嫌な思いをさせたくない〉

 故人を悼む気持ちは同じなのに、おカネで争ってしまう――現実でよく起きるそんな事態を避けるため、金子さんは細心の注意を払った。誰に遺産を相続させるかなど、死後、親族間で揉めるトラブルの芽を、生前に公正証書遺言を作成することですべて摘んだのである。

 また、死亡するとただちに預金口座は封鎖されてしまう。引き出すには、故人の戸籍謄本や法定相続人すべての印鑑証明などを揃えて銀行に提出しなければならず、最短でも1週間程度の時間を要する。祖父や夫といった、亡くなった縁者の預金を葬儀費用などに充てるつもりだった遺族が、口座を凍結されたことによって混乱に陥るケースは多いという。

 そのため、葬式の費用はすべて自分で出すと決めていた金子さんは、事前に葬儀などに掛かる費用を見積もって、喪主を務めることになる夫人の口座に移しておいた。

 金子さんは遺された妻のその後の生活についても思いを巡らせた。

〈この部屋から、片方の住人が消える。ひとり暮らしをするにはこの部屋は広すぎる。家賃負担も馬鹿にならない。(中略)今のうちに引っ越しできないか。ギリギリまでコストを下げる努力をしたい〉

 まさに流通ジャーナリストの真骨頂だった。

  

 多くの人にとって、遺書やエンディング・ノートを作成しようというときの大きな動機の一つは、「残された家族が困らないようにしておきたい」ということであろう。

 昨年41歳の若さで亡くなり、遺著の『僕の死に方』が「終活の見本」として大いに話題となった流通ジャーナリストの金子哲雄さんも、自分の死を自分らしく演出したいという動機とともに、自分の死後も奥さんが困ることのないようにできるだけ配慮しておきたいという動機が大きかったことがうかがえる。

 「この部屋から、片方の住人が消える。ひとり暮らしをするにはこの部屋は広すぎる。家賃負担も馬鹿にならない。今のうちに引っ越しできないか。」という文言は、金子さんがそうした配慮をするさに奥さんの目線で考えようとしていたことをうかがわせ、金子さんの奥さんへの愛情と思いやりの深さをしのばせる。

 しかし皮肉なことではあるが、それほどまで自分を思いやってくれる人がいなくなったことの喪失感は、金子さんの配慮にもかかわらず、部屋を引っ越す程度で埋められるとは思えない。じつは、金子さんが遺著『僕の死に方』で書き綴った奥さんへの思いやりの言葉そのものが、奥さんにとって最も価値のある「配慮」だったのではないだろうか。すなわち、おそらく奥さんは、これからその思いやりの言葉を胸に、それを心の支えとして生きていけるだろう。

 金子さんが残した最大の遺産は、じつは、金子さんの心からの思いやりの言葉、「コトダマ」なのである。

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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