農民が自宅近くで埋葬する中国 墓が増えすぎて大論争が勃発
中国ではいま、土地をめぐる深刻な争いが全国で多発している。なかには大きな暴動に結びケースもあり、中央政府も頭を悩ませている。
こうしたなか、いまやり玉に挙がっているのが農民たちの墓である。農村では自宅の近くや空き地などに勝手に遺体を埋葬することが多いのだが、時間が経過するにつれ、墓によって多くの土地が埋め尽くされるという問題が起きている。
これに対して地方政府は、強制的に墓を壊して農地に変えるための措置を行うようになっているのだ。
象徴的なのは今年5月に河南省周口市が始めたもので、これが大きな摩擦に発展し、最近では各メディアがこの政府のやり方の是非を問う記事を載せ、大きな論争を展開している。(NEWSポストセブン 2012.11.27)
日本での墓不足はすでによく知られているが、意外にも中国でも墓不足のようである。
「意外」というのは、たしかに中国の人口規模は大きいが、その一方で国土も広大なので墓地のキャパシティは十分にありそうなイメージがあるからである。
しかしじつは、中国は現在、深刻な”土地不足”に陥っている。すなわち、中国は世界の人口の約20%を占める一方で、農地面積は7%に過ぎない。一人当たりの農地面積で見ると0.092ヘクタールで、世界平均の40%にすぎない。しかも、地球温暖化による水不足と都市化によって耕作可能面積は1996年の1.3億ヘクタールから2008年には1.217億ヘクタールへと急速に減少している。
人口に比して農地面積が少ない、という問題はかなり以前から中国にとって重要な政策課題であった。そして、農地不足解消のために目をつけられたのが、「墓地」である。すなわち、中国ではもともと土葬が一般的だったが、限られた土地が墓地として”永眠”してしまうのを避けるために毛沢東時代から火葬が国策として推進されてきた。
しかしながらそれでも土地不足は解消されず、今世紀に入って今度は墓地不足も問題化してきた。また、都市部では不動産価格の投機的高騰の波及で墓地の価格も高騰している。そこで最近は、「海葬」が人気を集めてきており、当局も「環境に優しい」として規制緩和によって政策的に推進しているようである。また、都市部では「海葬」以外にも「花葬」「樹木葬」などが勧められているようである。
こうしてみると、現象面では中国でも日本と同様に「葬儀の簡素化」が進んでいるようである。
しかしながら、中国では墓地不足(ないし農地不足)という経済的要因が大きいのに対して、日本では、たしかにデフレ経済の長期化で墓地および葬儀費用が相対的に高くなっているという経済的背景もあるが、少子高齢化で墓守が困難になってきているとか、墓や葬儀のことで身内に負担をかけたくないとかという社会的・心理的要因が大きく影響しいると推察される。じっさい、中国では「葬儀の簡素化」は政策的にも推進されているのに対し、日本では今のところそのようなことはない。(むしろ表面的にはデフレ経済に棹差すことになるので政策的にはよろしくない。)
そういう意味では、日本よりも中国の「葬儀の簡素化」の方が消極的なニュアンスが大きいと思われる。


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