横浜市営霊園の樹木葬墓地

横浜市営霊園の樹木葬墓地

「家の墓」より「自分の墓」を選びたい

 墓地めぐりを重ねるうちに、立派な墓を建てても末永く継承できるとは限らない、という懸念が頭をかすめるようになった。息子は遠方で暮らし、娘は他家に嫁いだという家庭は、我が家も含めて少なくないだろう。その先の孫の世代になると、さらに不透明だ。墓守がいなくなった無縁墓が増えているという話もよく聞く。
 いっそ、家代々の墓というより、継承不要で、納得できる自分個人の墓を選んだ方がいいかもしれない。それなら、石とコンクリートに囲まれた狭くて高価な墓より、やわらかい土の中で眠りたいものだ。最近は墓石の代わりに木を植える樹木葬が注目されているらしい。

 特定非営利活動法人(NPO法人)エンディングセンターが運営する墓地は、見晴らしの良い郊外の丘陵地にある。定刻前だったが、既に定員いっぱいの約50人が詰めかけていた。60歳代の人が多い。「毎月見学会を開いているが、最近は申し込みが定員を上回るようになった」と担当者が話す。
 センター理事長の井上治代・東洋大教授は「我々の予想を超える支持と反響を得ている」と話す。3年前をはるかに上回る見学会の盛況ぶりを目にして、「時代の要請なのだろう」とあらためて実感した。

 「葬儀の個人化」が進んでいる。

 葬儀の「簡素化」(直葬)や「自然化」(自然葬)などが広まっているが、本誌ですでに論じたように(『「直葬」の広まりの背後にある「死の個人化」』)、そうした様式上の変化の根底には葬儀(あるいは死)についての意識や価値観の変化という意味での「個人化」がある。
 葬儀の個人化とは、簡単にいえば葬儀の主体がイエではなく個人(故人)になってきている、ということである。背景にはもちろん、少子高齢化によって実態的にイエ(家系)の継承というのが難しくなってきているということがある。
 そしてまた、これまでイエの継承の象徴として墓というものがあったが、都市化や核家族化のなかで「墓守」も難しくなってきている。こうした趨勢のなかでは、イエ主体の葬儀が時代に合わなくなってきているのは当然といえば当然である。

 しかしその反面、葬儀そのものの意義が薄れてきているのかというと必ずしもそうはいえない。ただし、葬儀の「個人化」は葬儀の「無意義化」につながる要素ははらんでいる。
 率直に言って、死んでしまえばその後どうなるかは個人(故人)にとってどうにもならないことであり、結局は遺族(ないし葬儀会社などの関係者)が個人(故人)の遺志をどの程度汲むのかにまったく依存する。(かりに葬儀について遺言を残したとしても、それに法的効力はない。)
 そしてまた、葬儀がどのように行われるのであれ、死んでしまった個人(故人)にはそれを評価しようもない。したがって、葬儀の「個人化」は、その意義(価値)の評価主体である「個人(故人)」がもはや存在しないわけだから、葬儀そのものが「無意義(無価値)」になる要素をもっている、ともいえる。

 しかしながら、じつは、葬儀の個人化は、暗黙のうちに、かりに自分が死んでもその葬儀を評価する主体としての自分が”遺(のこ)っている”、という観念に強く依存している。
 つまり、かつての葬儀が「イエの存続(永続)」の象徴的儀礼であり、それを評価し見守る主体が「イエ」であったとするならば、現代の(あるいはこれからの)葬儀は「〈タマシイ〉(魂)の存続」の象徴的儀礼であり、それを評価し見守る主体は〈タマシイ〉(魂)であるべきなのである。したがって、葬儀の個人化の趨勢は、「イエ主体の葬儀」から「タマシイ主体」の葬儀へ、という人びとの意識や価値観の変化の表れだと考えられるのである。

 たしかに、樹木葬や海葬などの自然葬によって、〈カラダ〉は山(大地)に、海に、還っていく。しかし他方、〈タマシイ〉(魂)は、故人が生前愛した山(大地)や海と共に、そのもとに遺る。そしてそこからいつまでも人びとを見守る。自然葬には、そのような願いが込められている。
 ただしわたしは、〈タマシイ〉(魂)は、ほんとうは山(大地)や海のもとに遺るのではなくて、人の「ココロ」に遺るものだと思う。したがって、そのような機会と可能性を継続(永続)的に提供することこそが、これからの「葬儀」の本義だと思う。

 〈コトダマの里〉が、そのような意味でのこれからの時代の霊園となることを願っている。

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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