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生と死が混じり合う人生の河口~日野原重明

 医学が進歩し、がんの化学療法や放射線療法などにより、全身に転移しても、数カ月かそれ以上、生きられる事例が増えてきました。

 こうした中で有意義なのは、ホスピスやPCU(緩和ケア病棟)に短期間(1~2週間)入るという新しい発想「レスパイト(respite)」入院です。
 英語で「現場を離れた一時的な精神の休養」という意味で、つまり患者は一時的な休息のために入院・入所し、そこで気持ちを整理して、いつでも死を迎えられる心の備えをするのです。

 英語にリトリート(retreat)という言葉もあります。日々の雑事から一時的に離れ、自然の中で心を洗い、生きる意義を感じることです。

 36歳の女性が、私の設立したホスピス、ピースハウス病院にレスパイト入院をしてきたことがあります。乳がんの手術を受けた後、肝臓などに転移し、自分の命はそう長くはないと知ってのことでした。
 残される7歳と9歳の2人の男の子がそれぞれ20歳になるまで、毎年自分の誕生日に「ママからのメッセージ」を渡せるように、それを書く準備のため、10日間入院したのです。彼女は2カ月後、自宅で亡くなりました。前日には、美容院で髪をセットしてもらったそうです。

「自分の休息のため」のレスパイト

 「レスパイト(respite)」とは、「一時休止、一休み、休息」を意味する英語である。社会福祉の文脈では、「レスパイトケア」や「レスパイトサービス」として、「乳幼児や障害者、高齢者など要介護者を在宅でケアしている家族の精神的疲労を軽減するため、一時的にケアの代替を行うサービス」の意味で使われる。

 つまり本来的な趣旨としては、日常的な介護で身体的にも精神的にも疲弊しがちな家族などの介護者の「一時休止、一休み、休息」のためのサービスである。

 レスパイトケアは、日本では介護保険で「ショートステイ」という形で制度化されている。ただ末期がんの患者のように胃ろう、気管切開、人工呼吸などの医療措置・管理が必要な場合は介護保険施設では対応できない。そこでそうした措置・管理を行える医療機関での“ショートステイ”が「レスパイト入院」である。

 ただ病院など医療機関は「病気の治療」が建前なので、あからさまに「介護・介助者の休息のため」という名目では受け入れずらく、名目上は「医療措置・管理が必要」という理由で医療保険の適用を受けて実質的にレスパイト入院を実施しているところも少なくないようである。

 それに対し日野原氏が提案しているのは、「自分の休息のための」レスパイト入院である。そのさい日野原氏がいう「リトリート(retreat)」とは、もともとは「隠れ家、避難所」の意味で、転じて「仕事や家庭などの日常生活を離れ自分だけの時間を過ごすこと、またその機会・場所」の意味で使われている。

 がんの治療のような長期にわたる闘病生活では、病気や治療そのものから来る身体的な苦痛はもちろん大きいが、それに加えて自分にあった治療法や病院などについての情報収集・探索、医者や看護師との付き合いやコミュニケーション、病状や予後についての不安、治療費の心配、家族への気遣いなど、考えるべきことや不安なことがあまりに多すぎて心理的・精神的にもいっぱいいっぱいになる。世間で最近流行の「終活」などとても考えている余裕はないし、考えたくもない、という人は多いはずである。

 ただ、過酷な治療のさなかはともかく、とりあえず病状が落ち着いて一段落しているときには、自分の闘病生活のあり方や今後の自分のこと、あるいは家族のことをしばし見つめ直すだけの心理的余裕も生まれるだろう。そうしたことをじっくり考えるための時間と空間をセッティングすることがあってよいはずである。

「エンディング・ノート」に書かれるべきこと

 そうすると、このような意味で家族の休息と同時に自分の「リトリート」のために積極的にレスパイト入院を活用することはあってよいし、今後は増えることが予想される。政府は現在在宅での緩和ケアを推し進めているが、そうであればそれをサポートする意味でも必要になってくるはずである。

 そうした機会を利用して、「エンディング・ノート」を作るというのはありうる一つの活用法である。ただそのとき、通常の意味でのエンディング・ノート、すなわち預金・保険などの財産目録や葬儀・墓などについての希望などを備忘録的に書き出しておくようなものがいいかどうかは人によりけりだろう。わたしは個人的には、そんなことより優先すべきことがあるように思う。

 日野原氏が紹介した「ママからのメッセージ」はどんな内容のものなのかは知らないが、おそらくは財産目録などではないだろう。すなわちそれは、自分が死んだ後も自分に代わって子どもの人生を支えていく言葉・メッセージであるはずだろう。そっちの方が、どうせすぐになくなるお金などに比べてよほど価値がある、とわたしは思う。

 いずれにしても、世の中にお金は膨大にあるが「自分」は一人しかいない。「自分」をきっちり伝え残しておくことが、家族にとっても自分にとっても本当に価値のあることだと思う。「レスパイト」や「リトリート」は、そのための貴重な時間を与えてくれるだろう。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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