認知症患者数の将来推計(出典:平成23年11月2日中央社会保険医療協議会資料)

認知症患者数の将来推計
(出典:平成23年11月2日中央社会保険医療協議会資料)

 厚生労働省老健局が2002(平成14)年に実施した将来推計によると、2005(平成17)年の要介護認定が自立度Ⅱ以上の認知症患者数は169万人、2015(平成27)年には250万人にのぼるとされている。

 言うまでもなく、認知症は本人にとっても深刻な病気であり、周囲の家族にとっても世話や介護で多大な負担となる。ただ、「終活」の文脈で考えると、とりわけ遺言・遺書の作成に関して大きな問題となる。というのも、遺言・遺書を作成する本人の「遺言能力」が遺言・遺書の法的効力の前提条件となるからである。

遺言の特徴、性質について

遺言の特徴、性質については、 (1)遺言者が単独で行えること、(2)遺言者の死亡によって効力を生じること、(3)遺言について合理的な判断をする意思能力(遺言能力といいます。)があれば独立かつ単独でできること、(4)遺言で行えることが法律で規定する事項に限定されること、(5)民法に定める方式に従わなければ効力を生じないこと、(6)生前にいつでも撤回して変更できることが挙げられます。

 
 認知症の場合は、この「遺言について合理的な判断をする意思能力=遺言能力」の要件が成立しなくなる可能性が高い。

遺言書の有効性

Q:認知症の状態で作成した遺言は、有効でしょうか?

A:一般的には、無効とされる可能性が高いと考えられます。
・認知症の方も、時折自分の行為を認識できる程度の判断能力を回復することがあり、そのような場合であれば、有効に遺言を作成することができます。
・認知症の方が成年被後見人となっている場合は、医師2人以上の立会いのもと、判断能力を失った状態でないことが確認されれば、有効に遺言をすることができます(民法973条)。
・しかし、成年被後見人でない認知症の方 が遺言をされた場合には、この規定が適用されませんので、遺言の方式が間違っていたり、判断能力を回復していたと判断することが困難であったりして、一般的には無効とされる可能性が高いと考えられます。

 
 したがって、自分の意思で遺言を作成する場合には認知症になる前に―少なくとも認知症と診断される前に―作成しておく必要がある。

 ただ実際には、認知症を他人事と思っていたり、遺言状を作成するのが面倒くさくて後回しにしたりしているうちに、認知症の兆候が現れてきて本人や家族が慌てて作成しようとする場合が少なくないと推察される。

 認知症の兆候が現れてきたり心配になってきたりした場合は、とりあえず医療機関の診察を受けてみるべきだろう。

 そしてもし問題がなければ、「遺言能力がある」旨の医師の診断書を作成してもらい、できるだけ早めに公証人役場で「公正証書遺言」を作成してもらった方がよいだろう。「公正証書遺言」は公証人によって遺言の正当性を保証してもらうわけなので、「遺言能力」をめぐって後々トラブルが生じるのを未然に防ぐためにも重要である。

 とはいえ、それでも「遺言能力」をめぐってトラブルになることはけっこうあるようである。

遺言の意思能力は、「医療記録が全て」というほど単純なものではない

 遺言の有効無効を争う依頼事件や相談は、絶えずそれなりにある。自筆証書遺言では、偽造ではないかがよく論争となり、公正証書遺言では、「口授」があったのかが争点となることが多いが、遺言能力の有無は、自筆証書遺言でも公正証書遺言でも共通して、必ずといっていいほど争点になる。

 こういう場合は、医療記録や介護記録などを検討して、遺言能力があったか否かを立証することになるが、これで問題なければ、じゃぁ大丈夫かというと、ことはそう簡単ではない。

 推定相続人間で自分の両親を奪い合い遺言書を書かせるというのは日常的にあるケースだ。そのため、親の奪い合い、拉致、などというぶっそうな出来事が、結構ある。
 で、連れてこられた母親は、目の前にいる自分の息子が、「息子であるおれに全財産を相続させるという遺言を作成してくれ」と言われると、「自分の命綱である息子を怒らせたら大変だ。面倒を見てもらえなくなる」ということで、不本意ながら、息子の意のままに書いてしまう。ところが、今度、娘が母親を奪い、自宅に連れて帰って「娘である私に全財産を相続させるという遺言を作成してよ」と言われると、「自分の命綱である娘を怒らせたら大変だ。面倒を見てもらえなくなる」ということで、やはり、不本意ながら書いてしまう。
 こうして、短い期間内に正反対の遺言が何通も作成される。信じられないような話だが、こういう話は、かなりあるのだ。

 
 遺言は本来本人の自発的意思に基づくものであるが、これではいくら家族と言えども他人に「書かされる」ことになってしまう。

 こうしてみると、「遺言能力」に関しては、狭い意味での「認知」能力だけでなく「意思」能力、すなわち他人の意思に惑わされずに自らの自律的意思を貫徹する「力」も重要であると言える。そのような意味で、遺言・遺書はやはり「元気」「気力」があるうちに作成した方がよいだろう。

 

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『コトダマ新聞』の主筆(代表)です。時流に流されずに死生観をめぐる文化論にまで掘り下げて考察したいと思います。

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